生分解性酢酸セルロース塗料のカラー塗料化
酢酸セルロースを使用したルアー作り
昨年はディッピングでのクリアコートに使うセルロースセメントを、一般的に販売されている従来のニトロセルロースベースの物から、生分解性のある酢酸セルロースベースの物へと代替を行ってルアー作りを試してきました。(その内容については、過去の記録記事にまとめています。⇒記録1,記録2)

このセルロースセメントは、樹脂と溶剤を別々に購入して自作する物ですが、今まで通りの使い方でルアーを作れるようになってきました。
このような事をしていると、今度はエアブラシで色付けをする際に使用しているカラー塗料の樹脂が気になり始めます。
せっかくセルロースセメントを生分解性にしても、エアブラシで吹き付けている塗料は、アクリルとかウレタンとか非生分解性の樹脂なんだよな・・・という矛盾がでてきます。
これを何とかするには、酢酸セルロースをカラー塗料としてエアブラシで吹き付けする必要があるのですが、当初から吹き付けには水性塗料しか使用してこなかったので、油性塗料を吹くための排気がシッカリした環境が整っていませんでした。
ですが、塗装ブースのグレードアップも行ったので、酢酸セルロースセメントでのカラー塗装を試してみました。(塗装環境はこちらで紹介しています。)
エアブラシ用ベース樹脂塗料
ザックリいえば、カラー塗料はベースとなる樹脂溶液に、着色を行うための顔料や、染料を混ぜ込んだ代物だと思います。
他にも性能を調整するような薬品が少量加えられていると思いますが、色々やっても難しいので、シンプルに樹脂+樹脂を溶かす溶剤+着色成分(顔料、又は染料)だけで、酢酸セルロースベースのカラー塗料を自作します。
もう少し簡単に書くと、酢酸セルロースセメントをエアブラシで吹き付けできるくらいに希釈したものに、顔料を入れて色を付けます。
このカラー塗料については、樹脂購入先のNature 3Dさんでも検討されていますので、自作に興味のある人はそちらのブログも参考にされると良いと思います。ここで紹介している方法とは、また違う方法を紹介されています。

写真の小瓶に入っている透明な液が、カラー塗料のベースとなる希釈した酢酸セルロースセメントです。
まずは、エアブラシでこの酢酸セルロースが吹き付けできないことには何も進まないので、何パターンか希釈した酢酸セルロースセメントを作ってみて吹き付け具合を確認しました。
吹き付けテスト用の酢酸セルロースセメントは、以前ディッピング用に作った物を、ジアセトンアルコールで希釈して準備しました。乾燥速度が速いとエアブラシのノズルで詰まると思うので、希釈には速乾性のアセトンは使用せず、乾燥の遅いジアセトンアルコールのみで行います。
ディッピング用に作ってあった物の組成は、樹脂10wt%/アセトン50wt%/ジアセトンアルコール30wt%/エタノール10wt%です。これを、ジアセトンアルコールで5倍希釈、7倍希釈、10倍希釈と3パターンの希釈液を作ってエアブラシで吹いていみました。
その結果ですが、7倍、10倍に希釈した物は、スムーズに違和感なく吹くことができました。5倍希釈の物も吹く事はできましたが、エアブラシのノズル詰まりの時に感じるような違和感が有るような、無いようなといった微妙な領域でした。
樹脂量は少ないよりも多い方が、乾燥した時に顔料粒子を固定化するには良いと思うので、スムーズに吹き付けできる最大ということで、7倍希釈のディンピング塗料を着色用ベース塗料とすることにしました。
ごちゃごちゃ分かりにくいと思うので、表にしておくとこのような感じです。
用途 | 酢酸セルロース樹脂 | アセトン | ジアセトンアルコール | エタノール |
---|---|---|---|---|
ディッピング用 | 10wt% | 50wt% | 30wt% | 10wt% |
エアブラシ用 (ディッピング用の7倍希釈) |
1.5wt% | 7wt% | 90wt% | 1.5wt% |
一応このような感じでエアブラシ用の塗料を準備していますが、一般的な塗料の樹脂量を調べると20%とか30%とか入っているようで、今回の樹脂量はかなり少ないような気がします。なので、顔料を入れてカラー塗料にしても、顔料粒子を仮定着させるためのカラー塗料で、上塗りのディッピングありきという感じになる気もします。まあ、そうであったとしてもルアーを作る場合は、カラー塗装後にディッピングでクリア層を作って保護するので大した問題では無いと思います。
この後、顔料の投入についても記載していますが、この1%強という低濃度の樹脂量でも、カラー塗装後の塗面を指で触れても顔料が手に付いたり、色が伸びたりするような事は無く、ルアーに顔料を固着させることはできていそうです。
顔料
次に色を付ける物についてです。
色を付けるには、顔料と染料の2系統があるように思います。顔料は色の付いた微粒子で、液には溶けておらず分散させている状態です。市販されているホビー塗料も顔料を分散させたものが主で、時間が経つと瓶の底に顔料が沈んで分離しているのが確認できると思います。塗料によってマチマチですが、下地を透けさせない隠ぺい性があるので、こちらの方がメインの塗料として使いやすいように思います。
染料は液に完全に溶けるので、固形物は存在せず光が透過し、クリアカラーの塗料になるものです。この系統も、ゆくゆくは有ったらいいなとは思いますが、まずは顔料を入れてカラー塗料を作ることにします。

使う顔料は、この写真の物にしました。クサカベという絵具関連の部材を扱っている会社から販売されている顔料です。
ピグメントという販売名で、沢山の種類の顔料を取り扱っています。クサカベのホームぺージへ行けば、色と成分などの情報がまとめられた一覧を確認できるので、そこで選ぶことができます。
絵具も自作する世界があるようで、そういった人たち向けの顔料の需要があって販売されているようです。これを使わせてもらいます。
色はとりえあず、次の5色を購入してみました。
黒(マルスブラック)赤茶(バートシェンナ)
緑(オキサイドグリーン)
青(ウルトラマリンライト)
黄(ビスマスイエロー)
同じような色で何種類かラインナップされており、成分も記載されているので、せっかくなので自然に放出しても毒性や影響が低そうなもので選びました。
黒(マルスブラック)と赤茶(バートシェンナ)は酸化鉄です。平たく言えば、黒さびと赤さびなので、土や砂にも含まれていそうで特に問題は無いでしょう。
緑(オキサイドグリーン)は酸化クロムで、クロムというと赤っぽい色の毒性が強い6価クロムもありますが、緑の酸化物はそれとは違う3価なので、大量に放出されなければ、これも自然にあってもおかしくない物と思います。
青(ウルトラマリンライト)は、アルミノケイ酸塩、硫黄と書かれています。硫黄交じりのガラス質の石みたいなものなので、これも問題ないでしょう。
黄色(ビスマスイエロー)は、バナジン酸ビスマスとあり、あまり聞かない変わった物質ですが、調べると毒性は無さそうです。
基本的に全て無機物なので、多少自然界に放出しても砂や、岩石のかけらみたいな物と考えられるのではと思います。
絵具の顔料なのでそんな高毒物のものは無いと思いますが、黄色系でカドミウム、オレンジ系で水銀の入った顔料も販売されていました。これらは使用するうえでも、毒性の面でちょっと嫌な感じがするので、選択から外しました。
どの色も5g程度のミニボトルの取り扱いからあり、値段も400円前後の物が多く、複数の色を揃えやすいです。
実際の購入は、品揃えの良かった世界堂という画材屋さんのオンラインショップで購入しました。

透明塗料への着色ですが、最初は何も考えずにエアブラシ用として準備した酢酸セルロース塗料に顔料を放り込んで混ぜてみました。
顔料の種類(色)によっては、これだけでもある程度綺麗に分散し、そのままエアブラシ吹き付けできるような物もありました。ですが、多くの顔料は、この写真のようにダマになり、それをエアブラシに入れると詰まったり、掃除が大変だったりして、カラー塗料として使うには厳しい感じでした。
一つの対策方法として、手始めにティッシュペーパーで軽く濾過してエアブラシに入れてみました。そうすると、ダマになっている粗大粒子は結構除去できて、それなりにエアブラシで吹き付ける事もできましたが、とてもロスが多いのと、やはりいまいちです。
ちょうどこの頃、酢酸セルロース樹脂を購入しているNature3Dさんでもカラー塗料化の検討をしていたようで、顔料の分散についてヒントを頂きました。一般的に塗料を作る際には、ロールといった機械(2つの金属棒で擦り合わせるようなもの)でシッカリと顔料を分散させて製造されるそうです。
分散はなかなか大変だなと思ったところですが、そういえば、クサカベのホームぺージを見ている際に、自作絵具の作り方という資料もあって、石板の上で樹脂と顔料をシッカリ練るような事が書かれていたな・・・というのを思い出しました。絵具も顔料を使って自作する場合はシッカリ分散させる事が重要なのでしょう。であれば、絵具の作り方を模倣して顔料分散をしてみようと思いました。
道具としては、自作絵具用に専用の練り棒などが販売されていますが、やはり数が出る品物ではないと思うので値段も高いです。ですが、硬い平たいもの同士で擦るように練れば一緒だろうと思い代用品を探しました。

見つけたのがこれです。
これは何かというと、ニトリで販売されていた大理石鍋敷きです。
絵具の作り方を見ると、大理石板の上で、ガラスや陶器の練り棒を使って練る、とあったので大理石で調べていたらニトリで良いのがありました。これなら700円くらいです。
本当はこの鍋敷きの上で、コップの底でグリグリやって練ろうと思っていました。ですが、この鍋敷きを床に落としてしまい角が取れてしまったので、その割れた欠片を練り棒代わりに使っています。

顔料の練り(溶剤への分散)ですが、まずは石板の上に顔料を出します。
目分量でやっているのですが、0.5ccスプーンで3杯くらいです。

そうしたら、ジアセトンアルコールを顔料の上に、顔料が全体的に濡れるくらい垂らします。
練りの最中に溶剤の揮発が少なくなるよう、高沸点で乾燥の遅いジアセトンアルコールのみを使います。

あとは石板の上でグリグリ良く練りました。練り加減がよく分からないのですが、10分くらい良く練ったところで終了にしました。この作業ですが、溶剤むき出しなので、換気が大切です。私は塗装ブースの前で行っています。
本当は、この段階で酢酸セルロースが溶かしてある透明塗料で練った方が良いのでしょうが、この少量では揮発による粘度変化が起きてエアブラシの吹き付けに問題がでそうです。なので、一旦溶剤で練って、それを透明塗料に入れる作り方にしています。

練りが終わったら、ヘラですくって、あらかじめ作っておいたエアブラシ用透明塗料に入れます。瓶に入れたら、ここでも良く振ってかき混ぜたら完了です。

酢酸セルロースの透明塗料と練り顔料が混ざった後の状態です。
顔料が綺麗に分散して、そのまま顔料を放り込んだ時のようなダマは無くなりました。
しばらく放置しておくと、また顔料は底に沈んで分離してきますが、普通の塗料と同じように使用前に振ればこのような状態に戻ります。

ルアーを作るために、こんな感じで3色の塗料を作りました。黒と赤茶は、顔料1色で作り、黄緑は青色と黄色の顔料を混ぜて作りました。
分散性は顔料の種類によっても違うようで、黄色とかすごくダマになって酷かったですが、この練りを行えば、とても綺麗に分散することができました。顔料も色によって粒子のサイズや、表面状態など分散に影響する特徴が違うようです。

エアブラシでの吹き付け状態です。
特に違和感なくスムーズに吹き付けできました。これならば、少なくとも自分が使う分には問題なく使えそうです。詰まりやすいアクリジョン(クレオスの水性アクリル塗料)などと比べれば、とても使いやすいです。
また、写真のように細く吹いたり、淡く吹いたり、こういった操作性は普通の塗料と特に違いは感じません。
これは紙に吹き付けていますが、乾いた後、指で吹き付けた部分を擦ってみましたが、顔料が剥がれて指に付くような事もありませんでした。樹脂量は1%強と少ないですが、何とか顔料の定着もできているようです。
ただ、分散状態は完璧ではないかもしれません。吹くのは問題ないのですが、塗料カップの底に少したまりやすく、ちょっと掃除がしにくいかなあといった印象はあります。まあでも、ルアーが作れればよく、完璧な塗料が必要なわけでもないので、これで良しとしようと思います。
この辺を突き詰めるのであれば、添加剤として界面活性剤的なものを少し入れて分散性を高めると面白いかもしれません。軽く調べた感じ、手作り化粧品の関連でいくつか自然系の界面活性剤が購入できそうでした。
酢酸セルロースカラー塗料でのルアー塗装
普段作っているルアーのカラーリングをするための、黒、赤、緑が揃ったので、早速ルアーを作ってみました。

作った3色の酢酸セルロースカラー塗料で塗装したルアーです。普通にいつもの感じでルアー塗装できました。
下地は酢酸セルロースセメントのディピングで作って、その上にエアブラシで吹き付け塗装をした後の状態です。
カラー塗料中の樹脂量が少ないのもあってか、この状態ではマットな仕上がりで光沢感はありません。これについては、この上にクリア層をコーティングするので問題ありません。
この後、セルロースセメントにディッピングを行って最終のクリア層を作っていく訳ですが、ここがルアー作りの鬼門であり、色流れの心配がでてきます。
ですが、このカラー塗料は、色止め無しで、いきなりディッピングしても色流れしません!!事前にこのルアーを作る前に小さな木片などでテストしており、その時に色流れしなさそうな事は確認できていましたが、この2つのルアーでも色流れは、やはり起きませんでした。樹脂と顔料だけのシンプルな構成なのがよいのでしょうか。分散性を上げるために活性剤など入れたりしようかなとも考えていましたが、これを見ると変なもの入れない方が良いかなとも思い始めました。それか、酢酸セルロース樹脂は溶けるのが遅いのですかね。いずれにしても、色流れしないのはとても都合がよいです。

ディッピングまで終えたところで、こんな感じで仕上がりました。
塗装後はマットな仕上がりでしたが、ディッピングすることで塗装した部分も光沢のある綺麗な塗装面に仕上がります。ここまでくれば従来の塗料で作った物と変わらない見た目です。
色付き酢酸セルロースセメントを作るまで色々と手間は掛かりましたが、なんとかルアーまで形になりました。
この後、リップ、フックを付けて使える状態まで完成させる予定です。また、このルアーですが、塗料だけでなく、他にも色々と生分解性に配慮して製作しています。それらについては、また別の記事にまとめたいと思います。
材料について
・酢酸セルロース樹脂 ⇒Nature3D様販売ページ
・ジアセトンアルコール ⇒Nature3D様販売ページ
・アセトン
検索すれば色々な所から購入できますが、私が見つけた中では一番安かったこちら→アセトン(純)各容量(1L・4L・16L) その他⇒amazon
⇒楽天
・エタノール ドラッグストアで買うのが早いです。
(無水と書かれている物を使用。IPと名前に付いた物は他のアルコール成分も少し入っていますが大丈夫です。)
⇒amazon ⇒楽天
・顔料(クサカベ ピグメント)⇒私が調べた中では、世界堂という画材屋さんが取扱数や在庫状況が良くおすすめです。
