生分解性素材の使用を増やす

製作したルアーの中身

前回までの記事で、ディッピングを行うセルロースセメントを生分解性のある酢酸セルロースへ置き換え、それを利用したカラー塗料も作りました。前回記事(酢酸セルロースカラー塗料)

完成ルアー外観

写真のルアーはカラー塗料も酢酸セルロースベースで塗装した物ですが、このルアーには、その他の材料もなるべく自然素材を利用して仕上げてみました。

もともとバルサウッドを利用したハンドメイドルアーは、ベースが木材なので大部分が自然に還りやすい物です。とはいえ、今まで通りの作り方だと、細かなところに色々と自然に還りにくい物も使っていました。こういった材料まで変えてみようというのが、今回作ったルアーで試してみたところです。

ボディの層構成

作ったルアーの断面をイメージ絵で書いてみました。

この絵の部分で今回変えているのは、ボディを貼り合わせる接着剤と、アルミ箔を貼り付ける糊です。

私は接着剤にセメダインCをよく使いますが、これも樹脂なのでプラスチック類です。

アルミは両面テープで貼り付けていました。これは、ベース部分だけは紙の物もありましたが、不織布に粘着ポリマーが塗布された物が多そうです。不織布は化学繊維なのでプラですし、粘着剤も水に溶けない樹脂が使われているので、両面テープもプラスチックですね。

酢酸セルロース接着剤

まずはバルサ材を貼り合わせる接着剤ですが、ディッピング用の酢酸セルロースセメントを濃くしたもので代用しました。

ディッピング用は10%で酢酸セルロースを溶かしていますが、今回は23%くらいで作りました。結構ドロドロしており、セメダインCと同じような雰囲気があります。セメダインCもセルロース系の接着剤なので似たようなもの、というのもあると思います。

濃度は適当な量でペレットを入れた結果の成り行きなので、もっと濃くできるかもしれませんが、とりあえずこれでボディ接着はできているので良しとしています。

また、この後記載しているリップの取り付けも、この接着用酢酸セルロースで固定しました。

アルミ箔貼り付け用のスティック糊

次にアルミを貼り付ける際の糊です。

この写真のプリットというスティック糊を使っています。主成分が変性デンプンと書かれており、すぐに自然に還ると思います。ただ、植物由来成分92%とも書かれており、残りは何か添加物が入っていそうです・・・。それらがどんなものか分かりませんが、水に溶けてしまう糊なので、そこまで追及しなくても良いかなと思います。

ルアー作りでは、リターダーで下地表面を溶かして貼り付けるという方法もあると思いますが、私は何度も溶剤を使うのが面倒なので糊で代用しました。

アルミ箔は変わらず使っていますが、10~20μmと薄いですし、上塗りしているコーティングは生分解性の酢酸セルロースなので、自然に放出しても腐食して、そのうち無くなるのではと思います。根本的に腐食は遅い物質でしょうが、アルミ箔の上にあるコーティングさえなくなれば、薄くて強度の無いアルミ箔となるので、バラバラになって砂や土に混じってしまい特に問題ないように思います。

一方で、アルミ缶について調べると、自然界での分解は数百年単位のようです。これは、色んな飲み物を入れるので、アルミをガードするためにシッカリした樹脂コーティングが内外面にされていること、加えて厚みも約0.1㎜(100μm)で、アルミ箔の5~10倍程度あることから、なかなか無くならないのだと思います。

アルミの腐食速度について、ChatGPTで調べると淡水中で1~10μm/年という回答です。平均的に5μm/年とした場合、厚手のアルミ箔(17μm)だと、無くなるまで4年くらいでしょうか。また、日本アルミニウム協会というところのホームぺージでは土壌中で普通のアルミ箔(6~10μm)では4~5年程度で酸化されて酸化アルミとして土に還るとも記載されていました。なので、アルミ箔については、コーティングさえ生分解性にすれば、特に問題ないかなと思います。

極めるならば、アルミの厚みが、さらに薄くなる銀紙などが候補に出てきそうですが、そこまでは不要でしょう。

ルアー内部構造のイメージ図

次に内部の絵です。

ルアーの中には、おもり、構造線、リップなどを入れ込んで作ります。普通の作り方だと、これらは全て自然に還らない物を使います。

リップはガラスエポキシ板が強度が高く、機能的にはとても良いのですが、ガラス繊維もエポキシ樹脂も難分解性なので竹製を試しています。こちらの記事でも書いており、まだテスト中ですが使えてはいます。

ルアー内部構造の製作写真

この竹リップを使用した感触から、今回は内部の構造線にも代用してみました。ラインを付けたり、フックを付けたりする箇所なので、大きな力が掛かりますし、その上、小さなパーツなので強度面の不安はあります。

とはいえ、ルアーに入れる前に重量物をぶら下げてテストした感じだと、2.5㎏くらいまでは耐えており、3㎏超えくらいから壊れる事が多かったです。ライン強度でいえば、5~6lbの強度に相当しそうです。私は普段4lbのナイロンラインを使うので、この竹パーツが壊れる前にラインブレイクが起こるため、最低限の強度は確保できていると思います。

さらに、重量物ぶら下げテストはコーティング無しの竹で試していますが、ルアー製作時にはコーティングも掛かるので、強度はさらに上昇しているのではと思います。

この構造線パーツですが、全て竹で作ると大変なので、ベリーフックの部分には麻紐も使いました。フロントアイと違い、向きがカッチリ固定されている必要もない箇所なので、この部分は紐でも良いだろうと。

というか、渓流で釣っていると、そもそもベリーフックには、魚はほとんど掛からない印象があります。アンカーのようなオモリとしてルアー姿勢を保つ効果はあるのでしょうが、ベリー部への食い付きが少ない小さなルアーでは、いっそのことベリーフックは取っ払って簡素化するのも一つの方法かもしれません。

その他の懸念として、アイの向きを金属のように曲げられないので、ルアーが真っすぐ泳がなかった場合の調整がリップでしかできないという欠点は残ったままですが・・・。とはいえ、竹製の構造線を一度試してみる価値はあるかなと思い作ってみました。

最後にオモリですが、これはタングステンボールのままです。さすがに、重量物で自然に分解するような物は無いですね。石ころでも入れるか?というのもありますが、比重が1/10くらいに軽くなると思われ、シンキング系ルアーを作るのは難しそうです。

タングステンは水中で腐食したり、溶けだす事が無く非常に安定な物質のようなので、ルアー本体が分解された後、タングステンボールだけ残っても鉛のように水質汚染を起こす事は無いと思われます。ただ、とてつもなく長い年月、金属ボールの形で水中、地中に残りそうです。形の整った重い石ころが落ちているな、くらいで問題ない気もしますが・・・。このオモリだけは解決が難しいですが、少なくとも鉛は使わない、という事以上の対応は現状難しそうです。

フック取り付け状態

続いてフック取り付け部です。

構造線を竹で代用したとはいえ、金属線の時と同じように穴が空いたテールアイ、ベリーアイが作ってあるので、今まで通り、スプリットリングを使ってフックを付ける事も可能です。

ですが、せっかく構造線も金属から竹に変えたので、フックの取り付けも金属スプリットリングは使わず、麻紐で取り付けてみました。

単に麻紐で輪っかを作って、いつものシングルフックを付けただけですが・・・。結び目が変なところに出ていると見た目がカッコ悪いので、結び目はシングルフックの輪っか部分に押し込んで一体感を出してみたら、見た目も悪くないように思います。また、結び目は解けないように、酢酸セルロースセメントを垂らして固めてあります。

これでフックまで取り付けできたので、ルアーの完成です。

このルアーは、オモリのタングステンボールとシングルフックを除いて、万一、川底や木などに引っ掛けてロストしても、そのうち分解して自然に還っていく事ができるのではと思います。(フックは素材とメッキ有無を考えて選べは、すぐ腐食する物もあるかもしれませんが)

ルアーフィッシングと同じような疑似餌釣りとして、ライフィッシングやテンカラ釣りといった毛鉤を使った釣りがあります。毛鉤と比較するとルアーのオモリは大きいので、ロストした時に放出される異物の総量は多いですが、従来のルアーに比べれば、環境負荷の点で毛鉤と良い勝負になるところまで来たのではないかと思います。

このルアーですが、実釣では未だ使用していないので、これから釣りに持ち出して強度など使い勝手を確認していこうと思います。もうすぐ3月で渓流釣りも解禁されるので、早速使ってみようと思います。

ただ・・・ルアーで3月の低水温期は厳しいよなと・・・。下手なだけかもしれませんが、ルアーで3月は中々釣れないんですよね。




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