ルアーの生分解性

ルアーフィッシングをしていると、ルアーをどこかに引っ掛けてしまいロストすることがあると思います。渓流釣りでは、川の規模が小さいことや、川に立ち入ること前提の装備もしているので回収率はかなり高いです。川底の石の隙間に引っ掛けてしまっても、大概は川に立ち入って引いてきた反対側から引っ張れば外れます。

ただ、どうしても回収できない場合は諦めるしかありません。

ハンドメイドミノーはバルサ材でベースを作っているので、一般的なプラスチックミノーに比べれば、プラごみの量としては比較的少ないかと思います。ですが、外側はセルロースセメント(ニトロセルロース)でしっかりと保護されているので、このクリア塗料について生分解性の高いものへの変更を試してみました。

以前から3Dプリンタで生分解性樹脂を使用したルアーを造形することは色々と試されていたかと思います。そのような情報を見ている中で、酢酸セルロースという透明な生分解性樹脂があり、溶かすことで塗料のようにも使えると紹介されていたので、それを試してみました。

酢酸セルロース樹脂ペレットの写真

これが購入した樹脂ペレットで、材質は酢酸セルロースという物です。昔から有名なPLA(ポリ乳酸)よりも、より幅広い条件で早く分解が進むようです。また、PLAは耐熱温度が低く高温での変形が気になりますが、酢酸セルロースならば耐熱温度も高く心配は無いと思います。

この酢酸セルロース樹脂は、紹介されていたサイトで購入できます。詳しい情報も記載されているので、気になる方や試してみたい方はNature 3Dさん(樹脂の販売ページはこちら)のサイトで確認してみてください。生分解性樹脂や、3Dプリンタの情報も色々と紹介されています。

この樹脂をどうやってセルロースセメントのような液状塗料にするかですが、アセトンで溶解すればよいと記載されていたので、まずはアセトンを購入します。ホームセンターでも取り扱っている場合もあるようですが、私の家の周りのお店では無かったので、通販で探しました。

ちなみに、入手性も良く、結構強力な溶剤であるラッカーうすめ液(キシレン、酢酸ブチルとか入ってる)なら溶けるかと思って、ラッカーうすめ液に少量の樹脂を入れてみましたが全く溶けませんでした・・・。

アセトンは検索すれば色々な所から購入できますが、私が見つけた中では一番安かったこちら→アセトン(純)各容量(1L・4L・16L)で購入しました。

その他も色々な場所で購入できます。⇒amazon ⇒楽天

酢酸セルロース樹脂ペレットの写真

溶かし方は、樹脂を缶に入れて、アセトンを注ぐだけです。溶けるまでは時間がかかり、時々缶を振ったり、混ぜたりしながら一昼夜で何とか溶け切るかなといった感じです。出来上がった液の見た目はセルロースセメントのような透明なコーティング液です。

7wt%から20wt%弱くらいまで作りましたが、今のところ10wt%くらいが扱いやすい粘度かなという感じです。

色々と試したのですが、最初はアセトンのみで樹脂を溶解して液を作り、ルアーをディップコーティングをしてみました。しかし、溶剤がアセトン100%の液だと、超速乾塗料です。予想はしていましたが、あまりに揮発が早く、従来のセルロースセメントのようなコーティングはできません。

これを行ったのは1月でしたが、真冬で湿気もない時期にも関わらず白濁が発生します。白濁するのに加え、コーティングを重ねていくとやたらと気泡が入ります。よく見ていると、ディップした直後は気泡が無いように見えるのですが、後から内面でフツフツと気泡ができているようです。想像ですが、乾燥が早すぎて、表面だけ乾いて、塗膜内に閉じ込められた溶剤がガス化して気泡が発生しているようにも見えます。

加えて、ディップしている最中に、ちょっと風が吹くだけでも缶内の液面が乾燥するようで、湯葉のように薄膜ができてしまいます。そのままルアーを引き上げるとルアーに団子のようにまとわりつき、1層での超厚塗りになってしまうこともあります。

とにかく取り扱いが難しいので、乾燥速度を落とさなければ、まともに使えません。

アセトンの蒸発速度の指標を調べると6くらいです。普段使用しているセルロースセメントの溶剤は、詳しい配合はわからないですが、酢酸ブチル、酢酸エチル、トルエン、イソプロピルアルコールといった物たちの複合なので、ならせば2や3といった蒸発速度ではないでしょうか。

その従来のセルロースセメントも湿気が多いと表面が白濁するため、乾燥速度を落とすためにリターダー(シクロヘキサノン、蒸発速度0.3くらい)を加えますが、それをこの酢酸セルロース液にも入れることにしました。釣り具屋とかでも50ccくらいの小瓶で売っていますが、かなり量を使うので、藤倉応用化工さんのオンライン通販サイトで1缶500ccの物を買いました。こちらでは、アノンという名前で販売されています。

楽天でもシクロヘキサノンと検索したら購入できそうでした。Amazonはリターダーでは出てきますが、リターダーも色々な種類がある事と、少量のみの取り扱いしかなかったので、やめた方が無難かと思います。⇒楽天

シクロヘキサノンですが、これは酢酸セルロース樹脂を溶かすことができました。アセトンと同じケトン類だからですかね。塗料屋の世界では、溶解度パラメーターSP値という指標があって、樹脂と溶剤のSP値が近いもの同士が溶ける/溶けないの指標になるようです。アセトンとシクロヘキサノンのSP値を調べると、どちらも10.0程度(情報元によっては9.9や9.8だったりもする)で、ほぼ同じなので溶けるということなんでしょう。今のところ手持ちの溶剤でこの樹脂を溶かすことができているのは、アセトンとシクロヘキサノンだけです。他のケトン類でも溶かせるのではと思いますが、一般個人では入手困難だと思います。

色々試したのですが、これなら使えると思った組成は、樹脂9wt%/シクロヘキサノン36wt%/アセトン55wt%です。

中途半端な数値ですが、ただの実績量なので、細かい意味はありません。ざっくり言うと、樹脂10wt%くらい、シクロヘキサノン30~40wt%くらい、アセトン50~60wt%くらいといった感じでしょうか。

とりあえず使えるようになった状態なので、これがベストなのかもわかりません。ちょっと粘度が低めなので、あと数%くらいなら樹脂が多い方が良いかもしれません。

そもそも、こんな超速乾溶剤と、超遅乾溶剤の極端な2成分構成で塗料を作るってどうなの?という疑問もあります。でも、まあそれっぽくコーティングできているので、これでしばらく使ってみます。

酢酸セルロースコーティング試作ルアーの画像

酢酸セルロースコーティングで作ったルアーです。透明な樹脂なので、普通のセルロースセメント(ニトロセルロース)で作ったルアーと見た目は何ら変わりません。

アルミ箔貼り前、塗装前の下地も酢酸セルロースで行っています。

ただし、見ての通り、リップはガラスエポキシ板を使っていたり、目玉シールを貼っていたり、色付けを行った塗料も酢酸セルロースではありません。まだまだ非生分解性物質が使われているルアーです。

ですが、ひとまずコーテイングだけでも生分解性にすることで、ルアーがバラバラになる足掛かりにはなるのではと思います。

ゆくゆくは、フックとオモリ以外は全て分解される物にできないかな?と思います。とりあえず目先は、リップのガラエポ板は何とか別の物にしたいですね。

酢酸セルロースコーティング試作ルアー、使用後の状態

このコーティングの強度ですが、まだ釣行回数1回ではあるものの、今のところ全く問題なしと思います。

この写真が使用後の状態です。写真では分かりにくいかと思いますが、特に背のあたりに擦り傷は付いているものの、割れなどは発生していません。強度は普通のセルロースセメント(ニトロセルロース)と変わりないといった印象です。

このルアーを使った日は、ほぼこのルアー一択で釣りをして、2時間くらい、2匹キャッチ、3バラシくらいで5匹くらいは掛けていますし、岩にぶつけたり、それなりの負荷が掛かっています。普通のプラスチックルアーでも結構傷だらけになる使い方だったと思うので、十分な強度です。

酢酸セルロースコーティング試作ルアー、増産品

増産中のリップ取り付け前のルアーたちです。これの一つくらいは、ガラエポ板ではない新しいリップをつけてみようかなとも思っているところです。色々試しながら色々作ってみて、今シーズンの釣りで使っていこうと思います。




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